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京都地方裁判所 昭和47年(む)138号 決定

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨は、京都地方裁判所裁判官が、昭和四七年一一月一九日被告人に対する本件被告事件について発した勾留状中、勾留場所として指定した京都府西陣警察署を京都拘置所に変更するとの裁判を求めるというにあり、右申立の理由は、弁護人提出の『刑事訴訟法第四二九条第一項第二号の規定に基く勾留に関する裁判変更請求書』記載のとおりであつて、その要旨は、被告人は勾留の基礎になつている事実について既に起訴されているのであるから、被告人を引き続き代用監獄である西陣警察署に勾留するのは不当である。

というに帰するのである。

二、当裁判所の判断

1  本件記録によれば、被告人は、昭和四七年一一月一九日、京都地方裁判所裁判官が発した勾留状により、勾留すべき監獄として指定された代用監獄である西陣警察署に被疑者勾留され、その後一〇日間の勾留期間延長の裁判を経て、同年一二月七日身柄拘束のまま起訴され、引き続き同警察署に勾留されているものであることが認められる。

2  そこで、前記主張に照らして勘案するに、準抗告審にあつては、原裁判後に発生した事実についても、これを裁判の資料として取調、参酌できるものとすることは、刑事訴訟法の規定の趣旨に徴して優に理解しうるところである。しかしながら、その事実が原裁判後著しく遅れて発生した場合にも、なおこれを取調、参酌しうるものとすることは、引いて原裁判を不当に長く不安定な状態に置くこととなり、準抗告手続が、原裁判に対する不服につきこれを簡易、迅速に解決しようとするための手段であることを本質とする精神にもとり、それが具体的妥当性ある裁判を結果づけない限り、原則として許されないものと解すべきである。

これを本件についてみるに、前記のとおり、被告人が起訴されたのは、原裁判があつてから一八日後にかかるのであるから、この程度の期間を経由して起訴された事実は、前記にいわゆる著しく遅れて発生した事実に該当するものというべく、本件の主張に照らし、具体的妥当性を考慮に入れても、この事実を本件の資料として取調、参酌することは許されないものと認めるのが相当である。

3  その他、一件記録を精査すると、原裁判当時の諸事情下において、被告人(被疑者)を勾留すべき監獄を西陣警察署と指定した原裁判の判断は相当と認められる。

三、結論

よつて、本件準抗告は理由がないから、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項を適用して、主文のとおり決定する。

(橋本盛三郎 田中明生 鳥越健治)

刑事訴訟法第四二九条第一項第二号の規定に基く勾留に関する裁判変更請求書

被告人 ○○○○

右被告に対し、同被告人に対する恐喝被告事件につき京都地方裁判所裁判官が昭和四十七年十一月十九日に発付した勾留に関する裁判は、左記理由により不服であるから刑事訴訟法第四二九条第一項第二号の規定により左記請求の趣旨のとおり右裁判の変更をするよう請求する。

昭和四十七年十二月八日

右被告人の弁護人

弁護士 前堀政幸

京都地方裁判所

第二刑事部御中

請求の趣旨

一、昭和四十七年十一月十九日京都地方裁判所裁判官が被告人○○○○に対し恐喝被疑事件につき発付した勾留状の勾留場所を京都府西陣警察署と定めたのを京都拘置所に変更する。

不服の理由

一、右被告人は、同被告人に対する恐喝被疑事件について、昭和四十七年十一月十九日に京都地方裁判所裁判官が発付した勾留状の執行を受けて代用監獄たる京都府西陣警察署(留置場)に勾留せられておるが、既に同年十二月七日、右被疑事件につき公訴が提起せられたので、同被告人が引続き右代用監獄に勾留されておることは、当弁護人の弁護のための接見被告人の家族の被告人との接見及び食糧その他物品の差入れなどにつき、一々捜査官の関与を受けることとなり、監獄法令の適用によつてえられる本来的な被告人及び弁護人らの権利の行使の妨げとなるので、当弁護人は同被告人を引続き右代用監獄に勾留することには不服である。

よつて右勾留に関する裁判の勾留場所を京都拘置所に変更するよう請求する。

二、なお若し右被告人に対しいわゆる余罪につき取調をなす必要がある場合であつても、苟くも公訴を提起せられた被告人の管理は訴訟当事者の一方たる検察官又はその指揮服すべき司法警察職員の支配力ないし影響力の下に在らしむべきではなく、中立的地位を有する京都拘置所の職員によつて行わるべきである。

それ故若し捜査当局がいわゆる余罪の取調をなすため弁護人の権利の行使に先んじて被告人の取調を必要とするのであれば、須らく検察官は速かに本件被告事件につき被告人に発せられておる勾留状による勾留の取消又は執行停止を請求し、右勾留状による被告人の身体拘束を釈いた上で、それをなすべきである。

そうでなければ、余罪捜査のため同被告人に対し新たな逮捕状の発付を受けて之が執行並に引続いての勾留状の執行を右代用監獄においてなすというが如き安易な考えに陥り、かくては先の勾留状の執行を受けたまま既に被告人となつておる同被告人の刑事訴訟法上の権利と両立しない事態を防止することができないこととなるのであり、若しかかる事態の発生を止むを得ないとするものがあるとすれば、それは被告人の権利を侵害することを顧慮しない暴論というべきである。

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